思ったことを「メモ」にとっておく

主に読んだ本の備忘録として「本の抜き書き」と「思ったこと」を書きつづり、さらに本以外のことでも「メモしたこと」、「考えたこと」についてつづっているブログ

【書評】『本の読み方 スロー・リーディングの実践』@ 「速読」よりも「遅読」こそ価値を生む


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投稿日:2021年4月9日

 

 

本の読み方は、そのときおかれた状況や活字経験によって変わってくると思う。だから、ボクは時々「読書本」を読むようにして、自分の読み方が今どうなっているのかを確認したりする。十数年前の読み方と今の読み方では大きく異なっていることに気づかされる。

 

以前は、「速読」優位であった。

 

一日の限られた時間の中で、仕事で読まなければならない資料や文献が多くある。そんなときに「速読できたらどんなに仕事が進むだろうか」と思ったことは何度もあった。だから、十数年前、速読的なことをうたっている「フォトリーディング」の集中講座を受けたこともあった。

 

 

 

「フォトリーディング」をやって役立ったことは、本などの活字から得た情報が今必要なのかどうかを取捨選択するという初期情報を一時的に素早く処理することができることだ。ただ、ボクはそれを速読とは思っていない。

 

単純に、知っている分野や既知の内容が書かれているところは、途中でひっかかるところもないので、素早く読める。これが現実的な速読なのではないかと思う。

 

しかし、不慣れな分野や新しい知見が書かれている本に触れるときには、速読だけでは、中身は入ってこない。やはり、本を一字一句じっくりと読んでいく「遅読」の方が結果的に知識として身につく。

 

だから、今は「遅読」=「スロー・リーディング」優位だ。

 

そして、今回、紹介する『本の読み方』は「スロー・リーディング」を中心とした「読書本」である。著者は芥川賞を受賞している小説家の平野啓一郎氏だ。

 

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP文庫)
 

 

 

 

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『本の読み方』の読書対象者

 

タイトルにもある通り、速読ではなく「スロー」リーディングとあるように、本をじっくり味わう方法を知りたい人に向いている。

 

また、速読にコンプレックスを持ってしまっている人や、「量」の読書から「質」の読書へと読書の方法を変えたい人にも良いテキストとなる。

 

 

『本の読み方』の要約

 

スロー・リーディングとは「精読」「熟読」を包括した読み方のことを指していて、

 

一冊の本にできるだけ時間をかけ、ゆっくりと読むこと

 

であり、本を何度も味わい尽くすことである。

 

 

著者は、第1部「スロー・リーディング 基礎編」の中で

 

わたちは、情報の恒常的な過剰供給社会の中で、本当に読書を楽しむために、「量」の読書から「質」の読書へ、網羅型の読書から、選択的な読書へと発想を転換してゆかねばならない。

 

と、主張し、読書の「質」の転換を促している。

 

そして、第2部「スロー・リーディング テクニック編」として、「助詞、助動詞に注意する」や「より<先に>ではなく、より<奥に>」といった具体的な読み方を提唱している。

 

最後の第3部「スロー・リーディング 実践篇」では、夏目漱石『こころ』や森鴎外『高瀬舟』などから、実際の本を通して読み方を解説。

 

 

読書メモ

 

では、『本の読み方』から「メモ」にとった一部をご紹介。

 

 

1ヵ月に本を100冊読んだとか、1000冊読んだとかいって自慢している人は、ラーメン屋の大食いチャレンジで、15分間に5玉食べたなどと自慢しているのと何も変わらない。速読家の知識は、単なる脂肪である。

 

なかなか、辛辣な表現だ。ボクも一時期、毎日1冊以上を読むことを日課にしていたことがあったので、耳が痛い。あれは、一種の大食いだったのか……。お腹強くないのに食べ過ぎていたのかもしれない。

 

 

・速読本は、「自己啓発本」だった


速読法の技術としてよくあるのは、こういう話しである。ページを開いたときに、文章を最初から目で追うのではなく、その全体を眺めて、写真を撮るようにしてそこに並んでいる文字群を、いわば映像として目に焼きつける。そうすると、意識のレヴェルでは読んではいなくても、無意識のレヴェルでは情報の取り込みが完了していて、本を閉じて思い返すと、内容が理解できている、と。

 

無意識というのは、ご存じの通り、意識でコントロールできな領域である。意識を通過して無意識の世界に取り込まれた内容を、あとから自由に意識しなおし、内容を論理的に組み立てるなどということができるはずがない。

 

これは「フォトリーディング」の中の一部の手法ことを言っているように思える。無意識の世界はまさに「意識」していないことなので、仮に無意識に落とし込めたとしても無意識の知識を意識上の知識として活性化することには無理がある。

 

ただ、読むこととは違いと思うが、「フォトリーディング」の情報検索技術は、有効だと思う。

 

 

 

・助詞、助動詞に注意する

文章のうまい人とヘタは人との違いは、ボキャブラリーの多さというより、助詞、助動詞の使い方にかかっている。

 

たしかに、ブログ記事を書いていると、助詞、助動詞の使い方が気になる。普段は気にしていないが、主語の次に「は」なのか「が」なのかでも伝わり方が違う。『英語独習法』でも語彙力は単語を知っている力ではなく、「単語の運用能力」と説明していたが、それと同じことのように思える。 

 

 

 

 

 

まとめ

 

この『本の読み方』では、「スロー・リーディング」は時間がかかり手間もかかる読み方ではあるが、その分、

 

5年後、10年後のための読書

 

であると著者は述べている。

 

なぜなら、スロー・ディングの本質は

 

言葉を深く理解する技術

 

でもあるからだ。

 

 

おわりに

 

本は「再読」することに価値がある。読む度に、新しい発見をし、新しい自分自身を発見する。そうしたつきあい方ができれば、本は人生のかけがえのない一部となるだろう。

 

まったくの同感だ。「再読」によって新たな発見があり価値が生まれる。もちろん全ての本を再読する必要があるとは思わないが、スロー・リーディングした本は、再読することで、より理解が深まる。

 

また、一ヵ月、半年、一年と時期をおいて「再読」してみると、読んだことを強化することにもなるし、また、読み落としていた大事なことに気づけることもある。

 

「スロー・リーディング」しておくことで、そのことに気づけたり、あらたな価値を見出すことも可能となる。

 

本は線を引いたり、付箋をはったり記号をつけたりしながらじっくり読み、何度もなんどもしつこく読んでとことん味わいつくしたいものだ。

 

 

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『本の読み方』の目次

 

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP文庫)
 

 

文庫版に寄せて

 

序――本はどう読めばいいのか?

 

第1部 量から質への転換を:スロー・リーディング 基礎編
・スロー・リーディングとは何か?
・「量」の読書から「質」の読書へ
・仕事・試験・面接にも役立つ
・速読家の知識は単なる脂肪である
・コミュニケーションとしての読書
・速読本は、「自己啓発本」だった
・なぜ小説は速読できないのか
・モンテスキューとぶどう酒
・「速い仕事」はどこか信用できない
・新聞もスロー・リーディング

 

第2部 魅力的な「誤読」のすすめ:スロー・リーディング テクニック編
・「理解率70%」の罠
・助詞、助動詞に注意する
・「辞書癖」をつける
・作者の意図は必ずある
・創造的な誤読
・「なぜ」という疑問を持つ
・前のページに戻って確認する
・より「先に」ではなく、より「奥に」
・「遅読」こと「知読」
・声に出して読まない
・書き写しは効率が悪い
・人に説明することを前提に読む
・複数の本を比較する
・傍線と印の読書
・「我が身」に置き換えてみる
・再読にこそ価値がある


第3部 古今のテクストを読む:スロー・リーディング 実践篇

夏目漱石『こころ』
・会話の中の「疑問文」に注目する
・「違和感」に注意する
・「時代背景」や「5W1H」を考える
・再び、全体へ

 

森鴎外『高瀬舟』
・「不自然さ」は場面転換の印
・「考える枠組み」を明確にする
・読者を「感情の踊り場」へと導く
・「情景の効果」を見落とさない
・条件を変えて読み直す

 

カフカ『橋』
・「書き出しの一文」に意味がある
・「形容詞・形容動詞・副詞」に着目する
・「場面転換の意味」を考える
・大胆に解釈する勇気を持つこと!
・「誤読力」を楽しむ
・感想は何度も更新されるもの


三島由紀夫『金閣寺』
・なぜ、このシーンが入っているのか?
・「思想の対決」としての会話
・「小技の効果」を感じとる

 

川端康成『伊豆の踊子』
・「主語の省略」に注意する
・「一人称体小説」は警戒すべし

 

金原ひとみ『蛇にピアス』
・テーマ設定による「他作品との比較」
・文章表現を「体感する」

 

平野啓一郎『葬送』
・「イメージの重層性」を取り雫さない
・「作者への反感」が頭を働かせる
・イヤになったら休憩をとる

 

フーコー『性の歴史I 知への意思』
・難しい評論は「補助線を引く」
・「常識への挑戦」を視覚化する
・文章を書くときの参考にする


おわりに