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【書評】『英語独習法』@ 10年近く英語を勉強しても話せるようにはならない理由がわかる


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投稿日:2021年4月7日

 

 

なぜ、英語をあれほど学習してきたのに、英語で話せるようにはならないのか?

 

中学、高校、大学をあわせると10年近く英語を学んできたはずだ。文法を理解し、単語もかなり覚えてきたつもりだ。

 

英語を「読む」ことはなんとかできていそうだが、スラスラ話せるかといえば、決してそんなことはない。

 

今の英語教育は「読む・聞く・書く・話すの4技能」が必要とか言われているけど、実際のところどうすれば、「読む」はともかく、「聞く・書く・話す」ができるようになるのか?

 

ボク自身も英語を学習し、英語を(読解中心だが)教えてきているので、この「聞く・書く・話す」の3技能へのギャップが大きいことはよくわかっているつもりだ。

 

特に「聞く」・「話す」の壁はかなり高く思える。

 

基本的なフレーズを覚えてそれを言うことはたやすいが、使えるフレーズなんてたかが知れているので、覚えたフレーズで使えるのは極めて限られている。

 

そして、実際の会話の場面で「話す」となると、まず相手の言っていることが聴こえない。だから、何を言っていいのかもわからない。それが入学試験や資格試験の音声だけだと、なおさら聴こえない。

 

しかし、スクリプトで文として読んでみると、かなり簡単な内容であることがわかる。

 

 

どうすれば、この「読む」ことができる段階から次の段階へと進んでいくことができるのか?

 

いろんな教材や手法をやってきてはみたが、どれも決定打とはならなかったが、今回紹介する『英語独習法』での英語学習法は決定打となりそうだ。

 

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英語独習法 (岩波新書 新赤版 1860)

英語独習法 (岩波新書 新赤版 1860)

 

 

 

『英語独習法』の目的

 

この『英語独習法』を読むと、外国語としての「読む」→「聞く」・「書く」・「話す」までの道のりがいかに遠いかがよくわかる。そしてどうすればその壁を越えていけるかも理解できる。

 

なぜなら、この『英語独習法』の目的は、

 

認知科学で知られている「学習の法則」を外国語学習に当てはめ、さらに英語の特徴を勘案しながら、英語学習の合理的な学習法を提案すること

 

としている。

 

さらに、

 

「合理的な学習法を提案する」だけでなく、「その理由としくみを解説する」ということが本書の特徴で、これまでの英語学習の数多の書物と違うところだと自負している。

 

 と、筆者が言うように認知科学の「学習法則」の知見から、精神論ではなく、独自の経験論でもない「汎用的な英語学習法」が理由をもって提案されているのだ。

 

 

「はじめに」書いてあったこの文章を読んだだけで、ボクのこの本への期待感はかなり高まった。そして、読み終えたあともその期待はまったく裏切られることはなかった。書いてある内容に、ボク自身の学習経験から照らし合わせても、まったく納得のできる内容であった。 

 

 

 

『英語独習法』の主な対象者

 

本書は主に、仕事の場でアウトプットできるレベル、すなわち自分の考えを的確・効果的に表現し、相手に伝えられるレベルの英語力を目指す人に向けて書かれている。

 

この本は英語の初学者向けの本ではない。学校教育での英語学習を一通り終えたあとも英語学習を継続している社会人向けの本である。英語の「読む」→「聞く・書く・話す」の各段階のギャップがよくわかっている人向けとも言える。

 

または、

 

英語でも、記憶や理解の認知のしくみを反映した学習法や指導法は大事なはずである。「わかりやすく教えれば、教えた内容が学び手の脳に移植されて定着する」という考えは幻想であることは認知心理学の常識なのである。

 

とあるように、英語学習者に英語を教えている者にとってもぴったりの本だ。むしろ、英語学習指導者こそ、読むべき内容であると思う。

 

この『英語独習法』は認知科学からの英語学習の実践的な解説本であるので、英語そのものよりも、認知心理学による合理的で効果的な英語学習による「英語の能力化」の方法に重点が置かれているので、読み進めていくと部分的に難しく感じる人もいるかもしれない。

 

ただ、実践的な部分だけを読み取っていけば、英語学習の理論書というよりも、実践書として読むことも可能だ。理論がわかった方が、実践にも幅がきくし応用できるから全て読んだ方がお得ではある。

 

 

要約

 

かなりざっくりいうと、『英語独習法』は日本語(母語)ではない英語(外国語)が耳で聴こえて、アウトプット(書く、話す)もできるようになるためにはどうすればいいのかを認知科学の知見から合理的な英語学習方法を解説した本だ。

 

 

とくにポイントとなるのは、「語彙力」。

  

言語を自在にアウトプットするためには、語彙が欠かせない。もちろん、文法の知識も必要だ。文法の知識が語彙の中に融合されていなければ、言語を自在に操ることは不可能なのである。

 

語彙があるといっても、「chase」=「追いかける」のように、日本語でわかる英単語の意味をたくさん知っていることではない。単語帳での学習の限界もここにある。

 

 

日本語の「追いかける」は、英語では、

 

・pursue

・chase

 

この二つの動詞が候補になるが、その違いは、目的語にどのようなもをとるかによっても変わってくる。

 

pursue → 目的語:carrier, goal, degree, educationなど
chase   → 目的語:cat, rabbit, ball, packなど

 

といったように。

 

 

こういった言葉を「共起の知識」を筆者と説明している。その単語それぞれに、また文脈によって、共起される単語が異なるということだ。

 

それが、動詞に限らず、名詞、形容詞、副詞にも当然ある。

 

このような単語の知識を無意識のうちに使いこなせるかどうかが、学習の習熟度によって変わってくる。

 

とくに、英語で悩まされるのは、いくら文法を完璧にマスターしたとしても、「名詞」が可算名詞なのか、不可算名詞なのか、「前置詞」はどれがいいのかは、常に付きまとう問題だ。

 

 

このような無意識に使える「語彙の知識体系」を言語知識の「スキーマ」と説明している。

 

スキーマは「知識のシステム」ともいうべきものだが、多くの場合、もっていることを意識することがない。母語についてももっている知識もスキーマの一つで、ほとんどが意識されない。意識にのぼらずに、言語を使うときに勝手にアクセスし、使ってしまう。

 

ことばについてのスキーマは、氷山の水面下にある、非常に複雑で豊かな知識のシステムである。スキーマは、ほとんど言語化できず、無意識にアクセスされる。可算・不可算文法の意味も、スキーマの一つなのである。

 

 

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この「スキーマ」は母語である日本語と第二言語である英語で大きく異なっている。だから、この「スキーマ」の違いが英語学習の最大の妨げになるという。つまり、この妨げが「読む・聞く・書く・話す」4技能の壁となるわけだ。

 

 

『英語独習法』では、母語である日本語のスキーマと英語のスキーマの違いを意識して、英語のスキーマを段階的に身につけていくような学習方法をとることを勧めていて、その具体的な方法が提案されている。

 

 

実際に目新しい方法は特にないのだが、ただ、それぞれの方法での意識の向け方や、何に重点をおけばいいのかを、認知科学の視点から事細かに説明している。この『英語独習法』のうまみはそこにあると思った。

 

 

 

各章の簡単なまとめ

 

第1章:認知のしくみから学習法を見直そう
・記憶や情報処理のしくみが英語学習にどうかかわるかを説明している。

 

第2章:「知っている」と「使える」は別
・認知科学の概念である「スキーマ」を英語学習という視点で解説。

 

第3章:氷山の水面下の知識
・知っていることが意識されない暗黙の知識である「スキーマ」が英語ではどのような構成になっているかを解説。本当の「語彙力とは何か」もわかる。

 

第4章:日本語と英語のスキーマのズレ
日本語と英語のスキーマのズレを説明し、どうすれば、英語のスキーマを身につけれるのかを5つのステップで解説。 

 

第5章:コーパスによる英語スキーマ探索法 基本篇
オンラインツールなどを使い、英語スキーマを探索する方法を6つのポイントで解説。

  

第6章:コーパスによる英語スキーマ探索法 上級篇
英語スキーマの探索をさらに深く進めていくために、言語の研究者も使う本格なツールを紹介。

 

第7章:多聴では伸びないリスニングの力
語彙が少ないのに、無理にたくさん聴いてもリスニング力はのびない。リスニングに時間を使うよりも先に「語彙を強化する」ことや、その分野の「語彙のスキーマ」を身につけることに時間を使ったほうがよい。そのための具体的な方法の解説もある。

 

第8章:語彙を育てる熟読・熟見法
多読、多聴の目的と限界を解説し、それよりも、語彙を育てるには熟読を勧めている。さらに、深い情報処理をして単語を覚え、語彙を増やす方法として映画の「熟見」を勧めている。

 

 

第9章:スピーキングとライティングの力をつける
スピーキング(話す)とライティング(書く)はどのような順番でどのように学習を進めていくと合理的なのかを認知的な違いからわかりやすく解説。結論はまず「ライティング」から。

 

第10章:大人になってからでも遅すぎない
母語である日本語の学習と、日本語を習得した後の英語学習の仕組みの違いから、合理的な英語学習について解説。そのうえで、語彙力の完成はいくつになっても訪れないのだから、英語学習は大人からでも遅すぎることはないと述べている。

 

探求実践編
動詞、名詞、前置詞の使い方を課題探求から実践的に解説。

 

 

 

 

おススメな読み方

 

理屈はともかくすぐに実践したい人

 

第7章 多聴では伸びないリスニングの力

 ↓

第8章 語彙を育てる熟読・熟見法

 ↓

第9章 スピーキングとライティングの力をつける

 ↓

第5章 コーパスによる英語スキーマ探索法 基本篇

 ↓

探究実践篇

 

 

リスニング、スピーキングのアウトプット力をつけたい人

 

第3章 氷山の水面下の知識

 ↓

第4章 日本語と英語のスキーマのズレ

 ↓

第5章 コーパスによる英語スキーマ探索法 基本篇

 ↓

第7章 多聴では伸びないリスニングの力

 ↓

第8章 語彙を育てる熟読・熟見法

 ↓

第9章 スピーキングとライティングの力をつける

 ↓

探究実践篇

 

 

英語を教える方

本書全編

 

 

おわりに

 

英語を習得するには、誰かに教えてもらいながら学習する時間よりも、独りで繰り返し読んだり、作文をすることに多大な時間を使うことがカギとなる。

 

この本のタイトルになぜ「独習」がついているのか、最初の方はよくわからなかったが、読んでいくうちにそれがわかった。

 

独習=自主トレがなければ、この本で提唱されていることは実現できない。語学に限らないが、圧倒的な「独習」量によって、スキルが内在化していくからだ。

 

達人になるためには感覚と直感を磨くことが大事だ。感覚と直感は、長年の訓練により、知識が頭ではなく身体の一部になって得られるものである。短い時間で楽に達人になることはできない。なにごとも熟達するには、時間がかかる。

 

ただ時間をかければよいわけではない。どのような分野でも、いやいや取り組んだり、うわのそらで取り組んだりしていては、いくら時間をかけても上達しない。注意を向けて取り組み、自分の進歩を糧に、自分なりの学習方法を編み出して学び続けた人が達人になる。

 

 英語に限らず、なにごとにも「熟達」するには、時間がかかる。特に語学はあせらず、じっくりと取り組んでいきたい。

 

  

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『英語独習法』の目次

 

英語独習法 (岩波新書 新赤版 1860)

英語独習法 (岩波新書 新赤版 1860)

 

はじめに
第1章 認知のしくみから学習法を見直そう
第2章 「知っている」と「使える」は別
第3章 氷山の水面下の知識
第4章 日本語と英語のスキーマのズレ
第5章 コーパスによる英語スキーマ探索法 基本篇
第6章 コーパスによる英語スキーマ探索法 上級篇
第7章 多聴では伸びないリスニングの力
第8章 語彙を育てる熟読・熟見法
第9章 スピーキングとライティングの力をつける
[ちょっと寄り道] フィンランド人が英語に堪能な理由
第10章 大人になってからでも遅すぎない
探究実践篇
【探究1】 動詞の使い分け(1)──主語・目的語に注目
【探究2】 動詞の使い分け(2)──修飾語・並列語に注目
【探究3】 動詞の使い分け(3)──認識を表現する
【探究4】 動詞の使い分け(4)──提案を表現する
【探究5】 修飾語を選ぶ──頻度に注目
【探究6】 抽象名詞の使い分け──共起する動詞と修飾語に注目
【探究7】 前置詞を選ぶ──前置詞+名詞の連語に注目
【探究8】 抽象名詞の可算・不可算
本書で紹介したオンラインツール
参考文献
あとがき

 

参考オンラインツール

Weblio 英和・和英辞典

Cambridge English Dictionary

英辞郎 on the WEB Pro(有料)

SkELL

Sketch English(フル、有料)

COCA
WordNet:A Lexical Database for English